仕事観『まちの身近な法律家』

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世の中には、さまざまな仕事や働き方があります。そこで多種多様な職種の人たちにスポットをあて、仕事について訊く本連載「仕事観」。
第1回は、東海地方を中心に活躍されている行政書士事務所に在籍している傍ら、個人事務所も営んでいる行政書士の前田智也さん。前田さんにとって仕事とはなにかを伺いました。

 

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――行政書士になろうと思ったキッカケは何だったのでしょうか。
木村拓哉主演の「HERO」というドラマを観て、その時に法律家という仕事がかっこいいなと思ったのがキッカケでした。大学に進学して法律の仕事にも検事、弁護士の他にも行政書士、司法書士などがあることを知って、その中でも自分に合いそうなまちの人たちに一番身近に寄り添える行政書士を生業として選びました。

その後、大学在学中に資格を取得したのですが、取得したからには実際にどんな仕事をするのか早く知りたくて、アルバイトをさせてくれる行政書士事務所を探すために、とりあえずタウンページを開いて片っ端から電話しましたね(笑)。
当時、なかなかアルバイトの募集をしているところがなくて苦労しましたが、話しを聞いてくれる事務所が見つかってそこで働くことになりました。
とにかくその事務所では、いろんなことを勉強させていただきました。

――現在、どのような仕事(業務内容)をされていますか。
外国人関連の業務が多いですね。例えば、外国の方が日本人と結婚した場合のビザの取得だったり、日本で働くための就労ビザの取得などです。また、外国人が日本人になるための帰化手続き、特別永住者の帰化手続きなどを主にしています。

また、自動車を買った時にナンバーを登録する手続きなどですね。
これは行政書士の手続きの中でも皆さんご存知の方も多いかもしれないですね。行政書士の仕事で、皆さんとの一番身近なものかなと思います。

それ以外にも、クライアントからのご依頼いただいた内容によって臨機応変に対応させていただいています。

▲ ナンバー登録の際に使う道具の一部

――お話しの中にあった、特別永住者とは具体的にどういう方たちなのでしょうか。
いわゆる、在日韓国人です。生活は日本人となんら変わらないのですが、国籍が韓国籍なので日本で昔から生活しているのに選挙権がありません。また、海外旅行に行った際に再入国許可がないと日本に戻ってくることができません。

通常、日本人は自国なので日本に戻ってくることはできるのですが、特別移住者は韓国籍なので外国人と同じ扱いとなってしまうため、日本に戻ってくることができないんです。なので、日本にちゃんと帰ってこられるように手続きを行ったりと、日本の生活に支障がないようにさまざまな手続きをしています。

行政書士の仕事は多岐に渡ります。行政書士の業務範囲は約1万種類と言われていて、僕の業務はほんの一部にすぎません。

――そんなに(笑)さすがにそれだけの業務を全て把握して行える人はいないですよね。
そうですね。全ての業務を生涯かけてもできる人はいないと思います(笑)だから、その中で自分が得意とする分野を専門として選んでやっていくって感じですね。

あと、以前関わった仕事で少し変わった案件がありました。テスト飛行パイロットのビザ取得の手続きですね。
テスト飛行なので飛行機が完成しているものではなく、未完成の飛行機を操縦するので技術的に優れてないと難しいということもあって、世界に数人しかいないんですよ。

残念ながらその中に日本人のパイロットがいないので、日本で飛行機を造るとなると、国交省などの許可が必要になります。許可を得るためには、テスト飛行のクリアが条件となるため、わざわざパイロットを海外から呼ばないといけない。そのための許可手続きとか。
かなり稀だけど、こういったことも過去にありましたね。

――お話を聞いていて、普段生活しているだけでは知ることのない仕事が数多くあるんだなって思うと同時に、行政書士という仕事の業務の広さを感じます。前田さんは、これまでどのような仕事をしてきたのですか。
住宅の営業ですね。というのも、大学在学中にお世話になった行政書士事務所の先生からの言葉で、「どんな仕事でも営業力は必ずいるよ、営業の勉強をした方がいいよ」と。

その時は、全くそんな事考えていませんでした。とにかく法律家になりたいということしか考えていませんでしたね。それまでは就職活動もろくにしていなかったけれど、その言葉を聞いてから営業力を身につけなといけないかなと日々過ぎていくなかで考えるようになって。
大学の友人など周りとだいぶ遅れてしまっていたけれど、就職活動をスタートさせました。

就職活動をするなかで、ひとつだけ決めていたことがありました。
それは、営業力を早く身につけるためには厳しい環境に身を置かなければと考え、数ある業種の営業職のなかでも体力を必要とする不動産業と決めていました。

――なるほど。営業職を経験してきた中で、なにを感じましたか。
営業の仕事は相手が何を考えているかをいち早くキャッチしなければならないと思います。相手が今何を考えているのか、今何を求めているのかをいち早く汲み取ってあげられることが営業の能力では大切だと感じました。

それは現在法律家として仕事をするなかで非常に大切なことで、相手の立場になって考えてあげられることができなければクライアントからの信頼も得られないし、クライアントと向き合うことができないと思っています。

――仕事は、喜びがあったり葛藤があったりの連続だと思います。仕事をしている中で、うれしかったことは。
この仕事って、泣いて喜んでくれる事があるんです。さきほどビザが取得できないと日本で生活ができない話しをしましたが、婚約者が外国の方でやっとの思いでビザを取得し、無事日本で生活ができることになった時に、泣いて喜んでくれたことがありましたね。

あと、帰化の手続きでクライアントが70歳くらいの女性だったのですが、無事帰化の許可が下りた直後に衆議院の総選挙があって。70年間生きてきて選挙に行ったことがなかったんです。日本国籍ではなかったから。だから日本の政治とは無縁の生活を送ってきたんです。

それで、無事帰化の許可が下りて70年間生まれて初めて自分も一票を投じることができた。その時、「ほんとうに感動した」とお話をいただきました。僕らは、普通に自宅近くの小学校や公民館に行って普通に選挙に参加してたけれど、そういう普通のことを「感動」という感情を持つ人もいるんだなと。

いかに自分たちが恵まれていることと同時に、この仕事のすばらしさを改めて感じることができました。

――逆に仕事をしている中で、大変なことは何ですか。
いろいろありすぎて(笑)
行政庁の中でもビザ取得などが関係してくる入国管理局の審査がとても厳しいように感じます。

行政書士の仕事って許可主義、認可主義と言われるものを扱っていて、行政庁の判断に基づいて許可、認可が下りるのだけれどもすべての条件を満たせていても最終的な判断は行政庁に委ねるしかなく行政庁の裁量で決まるというところです。

反対に準則主義(決まった手続きを満たせば確実にそのとおりになる)の裁量が行政書士業務にはない。
だから、確実に書類や資料をすべて揃えて万全な体制で手続きしても行政庁の判断で却下されたりしてしまうことがあるのでとても難しいところですね。

社会に対して自分はなにができるのか

――うれしかった事、大変なことも含めて人の人生を左右する仕事をされている前田さんにとって仕事とはなんですか。
きっと仕事って生きているなかで、どこかしらに意味が隠されているんじゃないかと思っていて、今やっとこの歳になって気づけていることは仕事を通じて社会に何ができるか。それが生きてきた意味なんじゃないかなと。

仕事とは、現時点で思うことは生きる意味そのものじゃないかなと思います。

――自身のターニングポイントはいつでしたか。
最近の話なのですが、うつ病になったことです。ここは結構自分のなかでは大きな出来事でしたね。
以前働いていた事務所での仕事がなかなか大変だったということもあって、精神的につらかった時期でした。うつ病になった後、休職して今はほとんど後遺症もなく普段通りの生活を送れています。

一時期、行政書士をやめて違う仕事をしようと思ったこともありました。正直なところ楽な仕事ではないので楽になりたいなと思った時期もありました。けれど昔を振り返っていろいろ考えました。

自分は、人のために役に立ちたいと言う気持ちがずっとどこかにあって。自分にはこの仕事しかないなと。自分はこの仕事が好きなんだと。

友人の助けもあって、また新たな気持ちで行政書士を歩むことにしたんです。 昔からプライベートと仕事が混同しているところもあったりと、ほとんど休むということを意識していませんでした。なので、そういう部分でもしっかりとメリハリをつけて抜くところは抜くといったオンとオフの切り替えを心掛けるようにしています。

――うつ病になったことで、それを武器に前田さんにしかできない仕事もあると思います。
そうですね。うつ病になったことで他にもやりたいことが出てきました。今、社会保険労務士の勉強をしています。うつ病を克服した行政書士兼社会労務士として、パワハラやモラハラなどの業務災害に悩まれている方たちのために役に立ちたいと考えています。

うつ病って社会問題にもなっているわけで、結構身近なものだと思うんですよ。実際にうつ病にかからないとわからないこともたくさんありますし、うつ病になったことによって色々わかることもたくさんありました。 社会問題となっているうつ病の防止に繋げられる事をしていけたらと思っています。

――最後に今後の自身の展開、目標をお聞かせください。
この仕事ってよく食べていけないとかっていろんなところで言われているけれど、こんな良い仕事はないと思っています。すごくやりがいのある仕事だし、すごく人のためになる仕事だし。この仕事のやりがいをもっと知ってほしいですね。

そのためには、行政書士がもっと何をする仕事なのかを広く認知してもらうように活動していきたい。世間で行政書士としての仕事が広く知れ渡っているのは、ほんの一部にすぎませんから。行政書士の地位の向上に努めていきたいと思っています。

あと、YouTuberには負けたくないですね(笑)

いつの日か、子どもがなりたい職業に行政書士を上位にランクインさせたいと思っています。

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プロフィール

前田智也 Tomoya Maeda

みなと行政書士法人  法人役員

1984年生まれ。愛知県名古屋市出身。名古屋市の大学卒業後、住宅メーカーで営業職を3年経て営業のノウハウを学ぶ。その後、法律のコンサルタント会社にて4年間勤務。あらゆる法律業務を学んだ後、在留資格(ビザ)申請、帰化許可申請といった分野を専門とする大手行政書士事務所に在籍する傍ら、個人事務所を立ち上げ現在に至る。