お茶を通して地域活性化を考える茶人の手仕事

後藤暢(茶人)

人・モノ・食

茶人というときっと歴史上の人物として有名な千利休を思い浮かべる人も多いと思います。茶室をつくったのも千利休。ただ、お茶の歴史を辿ると中国から伝わってきたもの。そんな中国茶に魅了され、現代の新たなスタイルで紅茶、日本茶と三刀流の茶で人を楽しませてくれる茶人 後藤暢(ごとうみつる)さん。後藤さんに少しお話しを伺います。

 

——茶人になろうと思ったきっかけはなんだったのですか。

高校を卒業してベアリングを製造する会社に就職しました。そこで6年間勤務していたんですね。それで友達や先輩たちと日々過ごす中でなにか自分の人生において変化がほしいと思うようになっていったんです。

その頃の私の仕事はというと、ラインの機械に不具合があれば修理等をおこなうなどの保守点検を担当していたのですが、しっかり機械が稼働していれば私の仕事はそれほど忙しくありませんでした。不具合なくラインが稼働していることは会社にとって良いことではあるのですが、毎日同じ業務をするなかで当時22、23歳だった私は仕事に対するエネルギーが余っていたので現状の仕事に少し不満がでてきたんです。

茶人の後藤さん

たまたま身近に起業しようとしている方がいて、その姿が格好いいなって思ったんですよね。そう思ってからは自然の流れでなにか自分もやってみたいという気持ちが芽生え始めて。自分はなにができるのかなと模索しているなかで、当時趣味が喫茶店巡りだったので喫茶店ができたらいいなと。ただ、喫茶店をやるにしてもなにか身につけないといけないと思って製菓衛生師の専門学校に通うことにしたんです。甘いものが好きだったこともあって。

——そこからお茶に興味が?

専門学校に通いはじめてすぐ、浜松市内の喫茶店でアルバイトをはじめました。アルバイトをはじめて間もなく、ある日アルバイト先のお店に忘れ物しちゃったんですね。それで忘れ物を取りに行って帰ろうとしたときに、長年勤めていた方が辞めるこということで、ちょうどお店の社長さんがその方のためにお茶会というか茶席をしつらえていたんですね。それで、社長さんが私に「時間あるなら一緒にどう?」って声をかけてくれて一緒にお茶をいただくことになったんです。

そのお茶というのが中国茶だったのですが、見たこともない茶道具でお茶を入れていたんです。なんだこれは?という衝撃でしたね。中国茶の知識は当然ありませんでしたし、珍しいことしているなって(笑)そこではじめて中国茶というものを体験したんです。25歳の時でした。

茶をたてる風景

当時は、お茶と言えばこの辺り(静岡茶)の深蒸し茶だったり紅茶だったらリプトンティーパック。ウーロン茶もペットボトルのものしか馴染みがなかったので(笑)

香りが華やかで飲んだことないものでした。色や味、匂いが全然違ったのが衝撃だったんですよね。自分のなかでお茶って何なんだろうって(笑)カルチャーショックでした。

お茶の淹れ方だったり楽しみ方も興味があったのはもちろんでしたが、なによりアルバイト先のお店でみんなとお茶を囲って飲んだあの空間がステキだなと思ったんですよね。その時の印象が良かったのと、お茶のおもしろさに惹かれていきました。

もっとお茶のことを知りたいって思ったのがきっかけでしたね。烏龍茶、紅茶が自分の口に合ったんでしょうね。お茶というものに向き合っていきたいと思いました。

紅茶

お茶のことをもっと知りたくなっていろいろ調べていくと世界の歴史の勉強にもなって。お茶から世界の歴史を知っていきました。もっとお茶のことを細かく調べていくと学校の教科書に載っていないような世界の歴史を知れたりするのでおもしろいですよ。

——茶人として、後藤さんはお客さんにどんなおもてなしをされているのですか。

お茶の時間を提供することに力を入れてます。お茶そのものを売るということではなくて、『お茶の時間を楽しみましょう』という感じです。お茶を生産をしているわけでもないし、茶葉を売っているわけではないんですよ。

お茶を飲む時間を売るというスタイルをとっているのでこれまでにないスタイルなのかなと思います。お茶の時間を通して、人とのつながりやそこでの気づき、人との温かさを感じてもらいたい。そんな空間を提供していきたいと思っています。これは、昔アルバイト先で体験したことが大きいですね。

茶を入れる茶人の後藤さん

自宅の敷地内に後藤さんのサロン・椿茶家がある。本日、お話しを聞いた場所。隠れ家的な雰囲気があって、入口の暖簾をくぐると茶道具の数々に見入ってしまう。

ここは、後藤さんと話しながらお茶が飲める場所。また定期的にお茶教室が開かれていて、サロンでお茶を飲みたい、お茶教室に通いたいという方は、予約をすれば誰でも利用できる。さらに、お茶の時間をもっと多くの人に届けたいと公共施設、レストラン、イベントにて出張サロンをおこなったり、大学や小学校で講師をするなど仕事の幅は多岐に渡る。

 

——現在、ご自宅の敷地内でサロンを開いていますが、今後どういうふうにしていきたいとかありますか。

将来的には、公園付きのお茶を提供する場をつくりたくて構想を立てているところです。これはカルフォルニアかな。こんな感じのをイメージしているんですよね。まわりの知人にこういうのいいでしょって言ってます(笑)

庭付きの茶を飲む場のイメージ

——後藤さんは、やりたいことだったり、考えていることを人に言うタイプですか。

そうですね。割と言っちゃいますね。言ったことって現実になるってよく言うじゃないですか。携帯電話ひとつにしても何十年前ではマンガの世界だけの話しだったけれど、現代においては当たり前のように実現になっているし、進化している。何事も簡単にはいかないけれど想いを言うことによってなにか生まれるかもしれないから。

 

蓋碗(がいわん)という茶道具。デザインはシンプルだが、茶杯、急須、聞香杯など機能がすべて備わっているもの。これでお茶をいただく。蓋で香りを楽しみ、湯呑でお茶を飲むと香りと味で楽しむのが中国茶、台湾茶の飲み方なんだそう。

蓋碗で匂いを嗅いでいる茶人

人の好み、人の感覚ってあるじゃないですか。味の濃さや温度とか。目の前にある茶葉をみて料理する感じです。例えば、タマゴ料理っていろいろありますよね。茹でる、目玉焼き、スクランブルエッグ、オムレツいろいろ思い浮かぶじゃなですか。そんな感じです(笑)

今日は少し焦げを付けるかとか、黄身の部分を半熟にするか少し硬めにするかみたいに、この茶葉を料理する。茶葉がもっているものを最大限に引き出してあげる。

——話は変わりますが、お茶というと全国的に有名な茶どころ静岡ですが、現状お茶の生産量が減ってきていると聞いています。後藤さんはどう思われますか。

そうですね、静岡県のお茶産業はかなり厳しいって声がありますね。地元でも放棄茶園が増えて後継者不足という声もあります。

例えば、コーヒーと比べるとお茶は、ここ何十年か時代の変化に対応していなかった気がします。今の時代にあったお茶の楽しみ方をアピールできたらいいなと思います。

お茶って何十年も前からなにも進化していないように感じるんですよね。そこが問題じゃないかなって感じています。演出も必要ですが、おいしい入れ方をもっと親しみやすく、わかりやすく世間にアピールできていれば広まっていると思うんですよね。

質の良い茶葉があるのにもったいないと思うんですよね。お茶屋さんもおいしく飲める入れ方が分かるのにまったく伝えきれていないように感じます。先ほどのタマゴ料理で例えるなら、これ焼きすぎだろって(笑)感じます。生産者の方たちも茶葉を活かしきれていないことがもったいないと感じますし、日本茶の演出も今も昔も変化がないなって。

お茶は、伝統的な文化なので伝統的なやり方を守らないといけないという思いは分かります。ですが、伝統を守るためには変化をしていかないといけないと思うんです。今と昔ではライフスタイルが全然違うからこそ変化が必要になってきていると思います。

過去の歴史をみていると失敗を恐れずに変化していくことが大事なんだと思います。それって人生においても同じなんじゃないかなって。日本茶の人たちはお茶の良さを知っているのだから楽しみ方をもっと提案してもいいんじゃないかって。変えちゃいけない部分はそのままに、すべてを変えていくわけじゃなくて今のライフスタイルにあった提案を考えて変化していけたらなと思うんですよね。

とにかくお茶の可能性を広めたい。そういう気持ちが強いですね。私も20年しかお茶に携わっていないのですが、本当にもったいない。

中国茶の茶葉

中国や台湾はお茶を高価なものとして扱っています。そこには、一貫して手作業で行っていて愛情を注いでいるように感じるんですね。だから、日本のお茶も中国のようにもっとブランディングの強化をしていかなければと思うんです。日本のお茶、特に静岡のお茶は質が高いんだから。世界にもっとアピールしてもいいと思うんです。

店舗の看板

後藤さんは、静岡茶の良さをアピールしたいと新しい取り組みを考えているそう。

今、生産者さんたちに声掛けしてこれまでにないお茶の売り方を考えているところです。ひと風吹かせ行きたいと思っています。茶人として地元のお茶を面白くしていきたいんです。

 

お茶に少しでも興味がある人は一度後藤さんを訪れてみてください。また、お茶に興味がない人でもぜひ、後藤さんとお話しをしてみてください。自身のイメージするお茶の概念が変わると思います。出張サロンのスケジュールはインスタグラムをご覧ください。また、記事中にあったサロンの利用、お茶教室は予約がすぐにいっぱいになってしまうため、早めの予約が必要です。

※予約はプロフィール欄に掲載されている椿茶家のインスタグラムから予約ができます。その他、出張サロン、講師等のご依頼もインスタグラムのDMよりお問い合わせください。

(※撮影時のみ、マスクを外していただいてます。)

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プロフィール

後藤暢 Mitsuru Goto

茶人/椿茶家

静岡県磐田市出身。高校卒業後、大手ベアリング会社に就職。喫茶店を開くため退職し、製菓衛生師の専門学校へ入学。専門学校へ通いながら喫茶店でアルバイトをはじめる。そのアルバイト先で中国茶と出会う。専門学校卒業後、お茶修行のため上京。オーナーが、日本紅茶協会理事を務める紅茶専門店、ホテルなどに勤め、地元磐田に戻ってきたタイミングで掛川茶を楽しめる施設で日本茶のノウハウを学ぶ。自宅に併設したサロンTubaki Chayaをオープン。
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